淀み

全国的な知名度はないが地元の人間なら誰でも知っている、そういうローカルフードは大抵どの地域にもあるもので、多くの場合そちらの方が「この地を食ってやったぞ!」という満足感を得られると思う。

仙台では全国的にメジャーな牛タンずんだ笹かまに対し、三角揚げという油揚げがそれにあたる。市の外れの山奥にある定義山(正式には西方寺と言うらしい)という寺の門前町で売られており、休日に行くと店内が老若男女でごった返す。言っちゃ罰が当たりそうだが寺自体はそこまで大して凄い訳ではなく、周辺にはダムくらいしか観光スポットがない。つまりほぼ全員が油揚げを食いにわざわざ山奥をドライブの目的地に設定している訳で、仙台市民は暇でやんすねと小馬鹿にしたくなるのだが、この三角揚げがひっくり返るほどうまいのである。伊集院も言ってたから間違いない。もうなんというか、俺の中では油揚げと定義山の三角揚げは別物という認識だ。

 

この寺は生活圏の最果てにあって、県道のどんづまりの場所にある。あぶらげ食いに来たお暇な皆さんは皆Uターンして市内へ戻って行くのだが、もっと暇なヤツは更に奥の林道へと進む。この先の分岐を右に曲がると、定義温泉という一般人立入禁止の秘湯が震災前まであったらしい。なんでも精神病を治療する湯治場ということで、つげ義春曰く浴室の壁に「大小便を堅く禁ず」と書いた張り紙があったそうだ。おーこわ。

曲がらずにまっすぐ進むと横川岳という地区に出る。本当の最果てはここなのである。ここは山間に少しだけ開けた牧場地帯で、他の集落とは雰囲気がたいそう異なる。風景だけを見るとのどかな場所なのだが、どんづまりの更に奥に位置しているということで、入ってはいけないエリアに足を踏み入れてしまったような、それでいて地図にない桃源郷に迷い込んだような、名状しがたいワクワクを感じる。

こういう場所は川の淀みのような雰囲気があって好きだ。人の流れもだし、空気や音の循環自体が閉じている感じがする。ここには打ち棄てられた市営バスもあった。空間と時間の外側に迷い込む場所、いずれはそんなところに別荘を構えたいけど、そうでなくても日々の散歩でそれに近い雰囲気を感じる場所や物はあったりするかもしれない。神社の境内に備え付けられているブランコとか、歩道橋の階段の裏側とか、寂れた公園の公衆便所とかそんな感じしません?しねえか。

 

初代サルゲッチュのどっかのステージで、森の中の小ぢんまりとした公園みたいな空間があった気がするし無かった気もする。そんな感じのアレが好きです。

 

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 定義山のマスコットキャラ、浄土くん

 

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 打ち棄てられたバス